Tくんは帰国子女。
レッスンは週1回のペースだった。
場所は、いつも同じファミリーレストラン。

7年も続いた彼とのレッスンが終わって
もうずいぶんになる。
今でも私は懐かしく、
Tくんのことを思いだす。
英語圏で育った彼は、
メモは必ず「English」だった。(わおっ笑)
ひどいニュースを聞いたときや、
呆れたときのしぐさも、
肩をすくめたり、
首を小さく横にふったり、
両手を広げたりといった
いかにも英語圏で育った人ならではの
ボディランゲージが多かったっけ。

初めて会ったのは、
彼がまだ、ろう学校の高等部を卒業したばかりのころ。
10代の、とってもあどけない男の子だった。
ご両親の仕事の都合で幼い時分に渡航し、
母語も手話もその国のものを使って大きくなったTくん。
日本に帰ってきた後は、
言葉(日本語)だけでなく、
日本の手話も覚えなければならず、大変だったと思う。
でも
面倒だっただろう漢字の練習もイヤな顔ひとつせず、
コツコツ取り組んだがんばり屋さん。
ある日、就職が決まり(私もうれしかったです。本当によかった!!)
数日後にはもう出社しなければならないということで、
私との日本語レッスンも
急遽「卒業」となった。

Tくんは、
いたずら好きでもあり、
月謝袋に、
手書きで作った
ブッサイクなお札や
ゴキブリをしのばせたりするのは、毎度のお・や・く・そ・く。
(あ、ゴキブリはもちろんオモチャ。
それなのに毎回悲鳴を上げる、すっとこどっこいな私笑)

「ボタン」
「押す」
という言葉を教えると、
用もないのにレッスン場としてお邪魔している
ファミレスの呼び出しボタンを
「このボタン、
押してもいいですか?」
と手話で聞いては何度も押そうとする。
そして
「こらっ!やめなさい!」と
必死に止める私の顔がおもしろいらしく、
白い歯をみせてはイシシと笑う。
例文を作らせようとすると、
必ず「ゴキブリ」という言葉も使ったな(遠い目)。
「ゴキブリをいれてもいいですか」
「ゴキブリ料理を食べますか」
「ゴキブリを・・・・・・・・」
こういうの、アレですか。
ア○○カンジョークって言うんですか?(多分ちがう笑)

でも、語学の勉強は、基本的に長丁場。
覚えなきゃいけないこともいろいろとあるから
努力なしに習得することは難しい。
イタズラは彼にとって
欠かすことのできない気分転換だったのでしょう。
でも、楽しかったな。
何年にもわたる毎週のレッスンを、
つらいこともあっただろうに、笑顔とゴキブリで
見事に乗りきって巣立っていったTくん。
お仕事がんばっているかなあ。
てか、笑顔とゴキブリって笑。
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